当院は「オーソモレキュラー在宅医療」を実践してまいります
「オーソモレキュラー」という言葉は1960年代にライナス・ポーリング博士により提唱されました¹。ビタミンやミネラルなどの栄養素を適切に理想的な量を摂取することで、健康増進や病状の改善を目指す医学です。栄養素の必要量は個々人の年齢や病状などにより大きく異なり、治療レベルの理想的な状態に達するためには、通常の推奨量の数十倍以上が必要になることもあります。多系統萎縮症の治療にコエンザイムQ10を用いる研究(東京大学 2023年)²では、1500mgの高用量を投与しており、これは一般的な推奨量60mgの25倍です。このように、理想的な栄養を達成することで、薬を増やさずに様々な症状が改善することがあります。
オーソモレキュラー治療について
当院は開業当初よりオーソモレキュラー治療を少しずつ取り入れてきましたが、薬だけの治療でよくならなかった病状が改善する例を非常にたくさん経験してきました。外来通院の患者さんだけでなく、在宅医療を受けている患者さんたちにこそこの治療法が必要であると感じています。
たとえば、アルツハイマー型認知症患者の脳萎縮の予防にビタミンB群とDHAが極めて重要である³⁴⁵とか、ビタミンDの欠乏が大腸癌の死亡リスクに関係したり⁶、癌性疼痛のコントロールに影響を及ぼしたりする⁷など、多くの病態・症状に栄養欠乏が関連しています。そして、医療を必要とする患者さんの多くが何らかの栄養障害を隠し持っています。それらは適切に評価して治療しなければなりません。
オーソモレキュラー治療には適切な食事に加えてしばしばサプリメントを併用します。また、栄養そのものを有効成分とした保険適応薬剤も数多くあるため、保険医療を中心にオーソモレキュラー治療を組み立ていくことも可能です。治療に必要となる自費サプリメントについては継続可能な範囲のものをご提案いたします。
オーソモレキュラー治療は近年とても注目を浴びています。マスメディアでも「新型栄養失調」という言葉と共にその内容が紹介されており、毎日のように健康食品の広告が流れています。慈恵医科大による最新の研究⁸では日本人の98%がビタミンD不足であると報告されており、ほとんどの人に関連のある問題です。ましてや、在宅医療を受けている患者さんたちは諸般の事情で理想的な食生活が困難な場合が多く、栄養治療を必要とする人がたくさんおられます。
オーソモレキュラー医療の父、エイブラム・ホッファー医師は著書のタイトルを「Orthomolecular Medicine For Everyone」と名付けました。私はこれを「すべての人がオーソモレキュラー医療を必要としている」という、先人からのメッセージだと理解しています。これに応えるべく、私たちは「Orthomolecular Medeicine To Everyone すべての人にオーソモレキュラー医療を届ける」をスローガンに掲げ、隠れた栄養障害に苦しむ在宅患者さんたちにオーソモレキュラー在宅医療を積極的に行なってまいります。
2024年 汐入ぱくクリニック 院長 新井正晃
参考文献
¹ Pauling L. Orthomolecular psychiatry. Varying the concentrations of substances normally present in the human body may control mental disease. Science. 1968 Apr 19;160(3825):265-71.
² Mitsui J, et al. High-dose ubiquinol supplementation in multiple-system atrophy: a multicenter, randomized, double-blinded, placebo-controlled phase 2 trial. EClinicalMedicine. 2023 Apr 14;59:101920.
³ Smith AD, et al. Homocysteine-lowering by B vitamins slows the rate of accelerated brain atrophy in mild cognitive impairment: a randomized controlled trial. PLoS One. 2010 Sep 8;5(9):e12244.
⁴ Beydoun, M.A., et al. Epidemiologic studies of modifiable factors associated with cognition and dementia: systematic review and meta-analysis. BMC Public Health 14, 643 (2014).
⁵ Fairbairn P, et al. The effects of multi-nutrient formulas containing a combination of n-3 PUFA and B vitamins on cognition in the older adult: a systematic review and meta-analysis. Br J Nutr. 2023 Feb 14;129(3):428-441.
⁶ Maalmi H, et al. Association between Blood 25-Hydroxyvitamin D Levels and Survival in Colorectal Cancer Patients: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2018 Jul 13;10(7):896.
⁷ Helde Frankling M, et al. ‘Palliative-D’-Vitamin D Supplementation to Palliative Cancer Patients: A Double Blind, Randomized Placebo-Controlled Multicenter Trial. Cancers (Basel). 2021 Jul 23;13(15):3707.
⁸ Hiroyasu Miyamoto, et al. Determination of a Serum 25-Hydroxyvitamin D Reference Ranges in Japanese Adults Using Fully Automated Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry. J Nutr. 2023 Apr;153(4):1253-1264.https://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20230605.pdf